Cry for the Moon

哀しがりの黒猫のひとりごと。

期待に応えようとした結果

彼の職場の会長との食事に、
わたしも同席することになり
緊張しながら今日を迎えた。

本当は先月の予定だったけれど
当然の入院で、キャンセルしてしまい
今回は絶対に成功させねばと思っていた。

会長は、彼のことをとても評価してくれていて
それをずっと知っていたし
昇進に関わる食事であることを
彼は言わないでいてくれたけれど、気づいていた。

彼の足を引っ張りたくなくて
良い奥さんでいたくて
体調が悪いことは言わないでいた。

待ち合わせに遅れないよう、
知らない駅まで一人で向かい、
なんとかカフェで時間を潰していた。

慣れないことをすると、
途端に体調が悪くなる。
パニック発作が完全に起きてた。
自覚してた。
でも、彼に言ったら心配させてしまう、
会長に気付かれたら食事会をダメにしてしまうと
一人で発作を収めようとしてた。

彼と会長が最寄りに着き、
お迎えに行った。
想像していたよりも若々しく、
優しそうな人だった。

食事は中華料理だった。
初めは和食料亭だったんだけど、
私が魚を食べられないことを知って、
会長がお店を予約しなおしてくれた。

お酒が好きと聞いていて
私がお酒を飲めることを楽しみにしていたと
言われていたから、
期待に応えなくちゃと思った。
何が好きと聞かれて、日本酒をいただくことにした。

福島の生粋という日本酒。
とても美味しいお酒。

会長は麦焼酎で、楽しく話ながら食事した。

たくさんのことを聞かれたし
彼もたくさん話してた。
にこにこしてるのは苦痛じゃなかった。
とにかく楽しく過ごしていることを
伝えなくちゃと思っていた。

日本酒を4合は飲んだかな、
少し酔ったけれど、意識ははっきりしていた。

食事が終わり、
会長を駅まで送ってから、
彼とふたりで帰った。

駅についたあたりから、
記憶が途切れ途切れになってる。
とにかく、人がいて音がして
心臓が張り裂けそうなくらい痛くて
怖くて、呼吸もうまくできてなかった。


電車にのって、
家の最寄りについた瞬間。
身体中の力が抜けて、
プラットホームに倒れ込んでた。
片手を彼がつかんでくれたから、
頭を打つことはなかった。

お酒も飲んでいたし、
知らない人との食事が、何より苦手な私にとって
今日はとても負荷になっていたんだと思う。
少し戻してしまって、
駅員さんが来てくれて、車イスで運んでくれたんだけど
ベンチに座れず、また床に倒れたらしい。

人が集まってきてしまって
ざわつく声に感覚の全てを支配されたような状況で
耳を塞ぎ踞り、
ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返し泣いていた。
後から聞いたら、集まってくれた人たちは
みんな私を心配して、
手を貸してくれたり、駅員さんの態度に怒って抗議してくれた人たちだった。

アルコールを飲んでいたから、
急性アルコール中毒か、ただの酔っぱらいだと思った駅員さんが
医務室を貸すことを拒んだこと、
床に倒れた私を放っておくと言ったこと、
仕方のないことだと私は思ったけれど
正義感を持って助けてくれる人がたくさんいたのだと教えてもらった。

急性アル中ではなく、
パニック発作を起こしていることを
泣きながら伝えて、
彼からも説明してもらったことで
医務室を借りることができ、
2時間くらい気を失っていたようだった。

やっと話せるようになって
お水も飲めるようになって
何が起きたのかを彼から聞いて。
何度も謝って、
会長には内緒ね、倒れたって言わないでね
無理してたって気付いたら、
いい気分じゃなくなっちゃうから、と
言ったら、彼は笑って約束してくれた。

タクシーを呼んで、車イスをお借りして運んでもらい
家まで帰って来た。

本当は食事の前からパニックを起こしていたことを話し、
待ち合わせに来た私の顔色が悪かったことを聞いた。

無理をさせてごめんね、と謝られた。
私が勝手に無理したんだよ、
期待に応えたくて頑張りすぎたんだよって。

倒れてしまったけれど
食事自体はきっと成功だったんだ。
会長は、私のこともいい人だねって言ってくれた。
彼のことも褒めてくれていた。

家に帰ってくるまで我慢できなかったのは
本当悔やまれるし
駅員さんとか、集まってくれた人とか
迷惑かけてしまったし
なにより彼に手間をかけさせてしまった。

期待に応えたかった、
うまくやれない自分は赦せない。

=遊兎=