Cry for the Moon

哀しがりの黒猫のひとりごと。

ただの動悸と眩暈

なんにも変わらなかった。
朝起きて
何もなかったみたいな顔をして、
そのまま出社した。

薬が抜けてないから
ぼーっとしてはいたけれど
昔よりもずっと
何もない振りが上手になっていた。

へらへら笑いながら仕事をして
食欲はないから食事はしなくて
残業してから、帰ってきた。


電車は満員で、
乗った瞬間に動悸が始まった。

少し走ったからか
脈拍が酷く早くて、苦しかった。

目の前が真っ白になって
一駅目で降りた。

無理だなと思ったから
倒れる前に飛び降りた。

ホームで少し座って休んで、
また電車に乗った。

また混雑していて
くらくらと眩暈が続いていた。

あと少しで最寄りから一駅前のとこに着く。
アナウンスが聞こえる前に
また立っていられなくなって
しゃがみこんでしまった。

キーンと耳鳴りがして、
汗が吹き出した。

大丈夫ですか、と男の人が声をかけてくれた。
次で降りるので大丈夫です、と返事をして
顔を無理やりあげて、立ち上がった。
手すりにすがり、ふらふらと出口に向かった。

危ないから着いていきましょうかと
再度声をかけてくれたのに
首を振って、大丈夫ですとまた答えた。

扉が開いて飛び出すように降りて、
ベンチに座り込んだ。
頭を下げていれば幾分楽で
ポロポロ泣きながらまた落ち着くのを待っていた。


ホームを出て、タクシーを呼ぼうにも
歩くことができず
ただ、しばらくホームにいるしかなくて。
小さく踞っていた。


何本か電車を見送って
ようやく座れそうな電車が来て、
よろよろと乗車し
一駅で最寄りに着いた。

休んだから、
だいぶ気持ち悪さもマシになって
それでも、扉が閉まった瞬間
息が止まりそうなほどに動悸が激しくなっていた。


帰ってからは寝室に倒れこんで
しばらく眠っていたらしい。

彼が帰ってきて、
一緒にコンビニに行ったけれど
少しもお腹が空かなくて
小さなスープを完食するだけで
一時間かかった。


そしてまた眠る前に
定量を越えた薬を飲んだ。

そうでもしないと
何か壊しそうな気がした。


眠っていたい。
何も考えなくて済むように。

理由なんてどうでもいいから
苦しさから目を逸らしたい。

=遊兎=