Cry for the Moon

哀しがりの黒猫のひとりごと。

独りよがりの約束

昨夜、彼にいろんなことを話した。

祖母の思い出話とか、

家族との確執だとか、

私の死生観について。

 

彼は相槌を打ちながら、

泣き続ける私の背をさすって

否定せずに全部を聞いてくれた。

 

私は、世界中で一番私が嫌いで

価値のない人間だと思っている。

それは生まれた時からずっと、抱え続けている思いで

この先も一生変わることはない。

私の世界は、私が生まれた瞬間に完成していて

誰かが死ぬたび、存在が消えるたびに

世界が壊れていくような気がする。

誰かが死んでしまうのが怖くて、

でも死ぬことが理解できなくて

恐ろしいほど巨大な喪失感に潰されそうになる。

 

だからいっそ、私がいちばん初めにしねばいいのになとおもってしまう。

 

価値がないのだから、誰かがいなくなってしまう前に

私がいちばんいらないんだから、と。

 

葬式や法事のたびに祖父母に言われる

「次は私の番だから」

という言葉が途轍もなく嫌いだということ。

年配者にとっての諦めのような言葉が

私にとっては

喪失感の始まりであり、どうしようもない恐怖であること。

自分がしにたいと常に思っていることに対して

罪悪感を植え付ける言葉であること、

なにもかもを投げ出して、しんでしまいたくなること。

 

全部全部吐き出すように話して

やっと泣き止んだ。

その頃にはすっかり朝になっていた。

 

曾祖母が施設に入ったときに、

一緒に入所したご親友と使ってほしいと

お揃いの巾着を作ってあげた。

手芸が趣味で、裁縫ばかりしていた私にとって

簡単なものではあったけれど、

曾祖母はとても気に入ったのか、所内でも愛用してくれていた。

 

曾祖母が亡くなり、施設の荷物を整理したときに

その巾着が消えていることが分かった。

気に入っていたから、きっと曾祖母が天国に持って行ってしまったんだよ

なんて話してたのを覚えている。

実際は施設内で盗難が相次いでいたらしいし、

きっと誰かが持って行ってしまったんだろうけれど。

 

その巾着を見た祖母が、

「いいなあ」と言っていたのを覚えてる。

巾着が消えているのが分かったのも、祖母が探していたからだ。

食べ物以外に興味を持たない祖母だったから

巾着を欲しがったことに驚いた。

それが15年以上前の話。

 

それから、幾度だって機会はあったはずなのに

すっかりと忘れていた。

 

祖母はもう、歩くこともできないし

出かけることもない。

何かを入れて持ち歩くことだってない。

だけれど、

曾祖母に作ってあげたのに、祖母に渡さないのは

可哀想な気もして

ここで、思い出したのは何かの啓示だったのかもしれない。

 

約束したわけではなかったけれど

いつか作ってあげようと思っていたのを

果たさないでいるのは耐えられなかった。

 

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家に材料はあった。

祖母の趣味じゃないかもな、と思いつつ

優しい水色の桜模様の生地に

赤紫の刺繍糸で、小さな巾着を作った。

 


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手のひらに載ってしまうほどの小さな巾着。

きっと何も入らない。

小銭なら数枚入れられるだろうけれど

役に立つことはない。

 

棺に入れてもらうためだけの贈り物。

 

祖母はまだ、頑張っているらしい。

呼吸数が減って、酸素飽和度はもう50%を切っている。

きっともう苦しさも感じていないだろう。

多臓器不全がいつ起きてもおかしくない。

 

そんな状況で、

見送る準備をするのは縁起が悪いような気もしたけれど

少しだけ、気が済んだような気もする。

 

 

旅行の荷物に、

葬儀に出られるよう喪服を入れた。

家族葬にすると聞いていたから、簡易のものだけれど。

お盆の間に、この洋服を使うことはあるんだろうか。

それももう分からないけれど

ただ、ずっと心が揺れている。

 

私にできることなんてもうないんだけれど

せめて、守れなかった約束だけでも

一方的に果たさせて。

 

=遊兎=